講演会「世界の動向から考える地域の森林管理」を開催しました
6/19(金)に「世界の動向から考える地域の森林管理」と題した講演会を開催しました。
講師は、脱炭素・エネルギー政策と森林管理をテーマに調査研究や政策提言に長く携わってこられた相川高信さん(PwCコンサルティング合同会社)です。当日はオンライン参加も合わせて29名の方にご参加いただきました。

温室効果ガスの増加による気候変動が世界的に喫緊の課題となっている中で、大きな貢献者として森林の重要性が増してきています。今回の講演では、そうした世界的な潮流を踏まえ、日本の森林や木材産業をマクロな視点で見つめ直しました。これまでの「木材を大量生産する林業」から、自然の価値全体を活かす「自然資本産業」へと転換していくために、地域の森林にはいま何が求められているのか。講演の要点をまとめてご紹介します。
当日の配信動画はこちらからご覧になれます。
世界の気候変動対策と森林への注目
地球温暖化、近年は気候変動という言葉でも表現されますが、大気中のCO2が増えて地球の気候が異常になっているという問題は皆さんもご存じの通りでしょう。そして、世界各国がこの気候変動に対して対策をしているところですが、なかなか世界的な足並みがそろわず、目標達成には程遠いというのが現状です。
その対策のひとつとして、大気中からCO2を除去する役割として森林が注目されています。人為的な排出量そのものを完全にゼロにすることが困難な現代において、すでに大気中に存在するCO2を「回収してストックする」手段として、森林が不可欠になっているという考え方です。。
しかし世界の森林を見ると、森林減少という問題があります。特にアフリカや南米といった地域での減少は顕著で、その原因は農地への転換や山火事(森林火災)にあるそうです。日本の森林の課題は整備遅れにありますが、世界の森林の問題は依然として伐られすぎているという問題の整理は重要です。
この森林減少の対策として、TFFF(Tropical Forest Forever Facility)という基金が設立されるなどの動きがあります。森林が「あること自体」にお金を支払うという取り組みで、現在66億米ドル、日本円にして約1.5兆円の資金が拠出されています。
また、木材を元にしたエネルギー利用の拡大やCO2排出の少ない素材としての木材の優位性なども改めて重要になってきています。
脱炭素対策としての炭素クレジットの現状
こうした気候変動対策としての森林管理に資金を回していく仕組みとして、炭素クレジットという仕組みが以前から動いてきました。森林のCO2吸収量を算定して、企業などがその吸収量を購入し、自社の排出量と相殺する、という建付けです。
炭素クレジット自体には、省エネなどの排出量を削減して生まれるクレジットもあるのですが、森林をはじめとした自然系のクレジットの方が単価が高い傾向にあります。これは、単なる炭素吸収の価値だけでなく、「自然」の価値全体での環境的な貢献が評価されているためです。
日本でも、炭素クレジットの取引市場(GX-ETS)が設置されるなど、近年の対応や状況の変化は目覚ましいものです。森林・林業の分野でもクレジットの活用に注目が集まってきています。
ビヨンドカーボンとしての自然資本産業への転換
この炭素クレジットへ森林側が対応していくときに重要になるのは、炭素吸収以外の森林の価値、川に流れる水の調整や土砂の保持、生き物の住処といった機能をいかに評価していくかということです。こうした複数の機能を同時に高めていけることが森林の強みでもありますが、それは放置していても発揮されるとは限らず一定人の手を加えていく必要があります。森を健全に維持していくための資金循環(きちんと利益を生み出し、山に還元する仕組み)が作れるかがポイントになります。
この「炭素吸収に留まらない」という点は、講演の中では「ビヨンドカーボン(Beyond Carbon)」と表現されていました。そしてこうした森の強みを生かしていくために、一次産業が「自然資本産業」への転換していくことがこれからは重要だと述べられました。
これは単に概念としてのものではなく、AIや測量機器、衛星画像の活用などテクノロジーの発展によって実現の可能性は高まっている、ということも強調されました。こうしたテクノロジーは、精緻にデータを取り、分析し、予測していくことを得意としています。つまり、自然全体の複雑な価値を可視化していくことが可能になりつつあるわけです。
この「自然資本産業への転換」というのが今回の講演会の大きなキーワードだったように思います。
時代の変化に対応するフォレスターの役割
ここまで世界の気候変動対策や森林に対する期待の変化、そして自然資本産業への転換という話をしてきました。
日本の方に目を向けると現在、日本の林業は大きな曲がり角を迎えています。木を間引く「間伐」から、植え替えのために広く伐採する「皆伐・再造林」へのシフトが進むなかで、国の森林整備予算は限界を迎えつつあります。多くの森林に十分に補助金が行きわたらない状況です。相川さんからは「地域で自立的にお金も含めた確保というのを考えていかないといけない時代に入っているのではないか」という言葉もありました。
さらに、国内の住宅着工数の減少という逆風もあり、これまでの「木材生産だけを目的とした森づくり」は、ビジネスとして岐路に立たされています。
こうした中で、森林環境譲与税や森林経営管理制度といった新しい制度を活かしながら、人工林の未来をどう見据えていくか。ここで期待されるのがフォレスターの役割です。
フォレスターにはこれまでの木材生産に加えて、地域の森林の環境価値全体を引き出して、マネタイズしていくことが求められていくだろうと述べられました。そして国としては、フォレスターをはじめ森に関わる技術者が連帯できる仕組みが構想されていることもご紹介されました。
講演後記
以上、講演の内容をまとめてみました。世界の潮流から日本の状況まで概観したうえで、今地域の森林に何が求められているのか、その全体構造をよく理解することができたように思います。
また、「森林の環境価値を都市と連携して発揮していく」ということを大きなテーマに掲げているもりとみず基金の取組みの重要性を改めて実感する機会にもなりました。「森の多面的機能」という古くから語られてきたテーマを、現代版に焼き直し、森と関わり続ける道を探っていく、そのためのヒントが得られたように思います。
参加された方からは以下のような感想をいただきました。
・知らないことがたくさんあり勉強になっただけでなく、なんとなくそうだと思っていたことを数値やエビデンスベースで示してくださったことで、より森への理解と取り組みのベースとなる知識が強くなった。
・森林の持つ価値の内、物質生産以外の価値をマネタイズする方法について世界的な潮流や課題について理解が深まりました。 また、地域フォレスターの存在意義についても、その重要性を再認識することが出来ました。
・森林に対する考え方が変化した。これまでは割と炭素の吸収という認識が強かったが、生物多様性・水源涵養などの機能も評価をさせるようになっている。 森林の評価は目に見えにくいものが多く、それをどういった形で評価していくのか。また、お金にしていくのか考えていく必要があると感じた。
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