「育林と山林経営」講習を実施しました
8/20-23の3日間は、人材育成研修として「育林と山林経営」講習を実施しました。
今回のテーマは、若齢林です。嶺北地域内でも、皆伐・再造林が進んでいます。今後、造林されてから20年ほど経ち除伐を行う若齢林が増えていくことが予想されます。その際に、どのような考えや方針に基づいて作業を進めていけば良いのでしょうか?今回の講習では、若齢林の施業方針や林業経営の考え方を愛媛県指導林家の菊池俊一郎さんに教えていただきました。
菊池さんは、愛媛県西予市でみかん農家と所有山林での林業を行う自伐林家で、昨年度は作業プランニング研修の講師も務めていただきました。

1日目
今回の参加者の方は地域おこし協力隊や個人や小規模で林業を行われている方が参加されました。
初日の座学では、自伐林家という立場から、小規模林業の取り巻く状況などについてお話いただきました。
最初に、菊池さんは「お金の話をしに来たわけではないけど、林業を行っていく以上お金のことは頭に入れて活動しないといけない。」と話されました。
菊池さんが話す林業は木材生産だけを指すのではなく、道をつけたり、植栽を行ったりなど木材生産以外の作業も含まれています。小規模林業や自伐型林業は、林業事業体と比較しても作業量も資金も限られています。そのなかでも、収入を確保して生活していかなければなりません。収益を上げながら事業を継続していくには、直接的に収入を得るための作業と将来を見据えた作業とのバランスを考えることが重要になってきます。また、補助金の仕組みや制度の内容をしっかり理解をして味方につけていくことも必要です。

小規模林業者としてこれからどう林業を行なっていくのかという話が1番印象に残っています。
今回の参加者の多くは地域のおこし協力隊の方でした。主にその方たちに向けて「まともに林業で勝負するな」と話されました。
技術だけで勝負するとなると当然長くやってきた人が有利になります。既存の枠組みで勝負するのではなくて、これまでの自分の経験と林業を組み合わせることで、オンリーワンを目指せること。また、全てを自分でやるのではなく、得手不得手に合わせて人を巻き込みながら、林業を進めていく必要があると話されました。
自伐林業と言われると、全てを1人でこなすイメージがあります。決してそうではなく、周りと協力しながら、個性を活かして進めていくことで、より持続的な活動にしていくことができます。隊員の方々の卒隊後の活動につながるとても大事な話だと思いました。
2日目・3日目
2日目・3日目は実際に森林の中に入り、菊池さんに解説していただきました。
立木から樹高や胸高直径を読み取り製材したときの価格を予想しながら作業を行うことや、20年生のヒノキ林での切り捨て間伐の考え方、若齢林の森を見るときのポイント、50年生の森林からどういう施業を行い、その結果どうなるのか、収益はどう考えられるかなどについて説明してもらいました。
特に印象に残っているのが、間伐を行なったヒノキ林と間伐を行なっていない比較して、参加者の皆さんに投げかけた「どっちの山を買いたいか?」という質問でした。


間伐を行なったヒノキ林は、ぱっと見は明るく下層植生も生えて整備されている印象です。林内環境としてはよいのですが、「林業」という視点ではまた違った見え方になります。
前回の間伐の量(伐った本数)も少し多かったのか、残った木の本数がかなり少なくなっています。本数としては60年生時に適度な量です。現在30年生とすると、ここから残っている木は育っていきますが、おそらく30年ほどは手を入れる必要がなさそうです。逆に言えば、30年間木材による収益が見込めない仕上がった山、ということになります。
一方で、間伐を実施していないヒノキ林はすごく木が混み合っていて下層植生も発達しておらず一般的に良くないと言われる状態です。しかし、残っている本数が多いので手入れの仕方によって経営の方法も様々考えられるし、やり方次第では定期的に収入を得ていくやり方は可能だということです。
これはどちらが良い悪いという話ではなく、道からのアクセスの良さや地形、所有する面積などで方針は変わります。重要なことは、どういう目的に対してどういう山を持ち、作っていけばいいかを判断し選択していくべきだということです。
菊池さんの森林の普段の見方がわかるような一幕でした。

終わりに
3日間菊池さんには、小規模林業者としての若齢林の施業方法や森林の見方・考え方についてたくさん教えていただきました。いろんな話の根底には「小規模事業者としてどう継続していくのか?」があるように感じました。小規模林業者は、林業事業体と比較しても資金や年間の作業量は限られています。
そのなかで、林業という経済活動として収益を上げていかなければいけません。そのためにも、長期的な視点に立って収益を生み出せる森林を育ていくことが必要です。これから、増えてくる若齢林での施業というのは、収益を生み出す森林づくりへの第一歩となります。
参加された方々のこれまでの作業の振り返りと卒隊後も見据えた今後の活動の指針を考えるきっかけになったとなったのではないかと思います。
参加者の皆さんからは以下のような感想をいただきました。
・実際の山林を実例として間伐の要否や過間伐後の経過を確認することができ、理屈では分かっていた内容が実感として腑に落ちた。
・皆伐、間伐という選択肢ではなく間伐で生計を立てる山の作り方、施業の仕方を習えたのが大変為になった。
・3割などの数値に縛られず山の状態に応じた施業が必要なことと、その施業でしっかり収益を得る必要があること。
・現状自分たちが請負の仕事で短期目線での山づくりになりがちだが、長期的な計画も考えないといけないと感じた。
・知らない事が多く、一つ一つ丁寧にご説明頂き、勉強になった。